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Home > 酒井善史作 『宇宙遊戯』
近未来SF官能小説。
重力から解き放たれても、ヒトは淫ら。
「3、2、1、発射。」
コクピットに女性オペレータの声が響く。
「了解」
前方への加速が体をシートに押し付け、機体は真っ暗な宇宙へと滑り出す。
「発進を確認。今日もがんばってね。」
コクピットのモニタに表示されている彼女と一瞬目が合った後、通信終了。が、彼女が映るモニタはつけっぱなしにしておく。ああ、最後の、自分だけに向けられていた彼女の声。視線。この瞬間に僕が彼女にどれだけの劣情を抱いているのか、彼女には知る由もない。
落ち着いた、それでいて艶やかで、直接僕の脳髄を振るわせる彼女の声。
それを聞くだけで、僕の下腹部はその首をもたげ、パイロットスーツの下で窮屈そうに隆起しはじめる。
彼女とは基地内で数回すれ違ったことがある。声だけでなく姿も、形よく程よい大きさにふくらんだ胸や、メリハリ良くくびれた腰からツンとはりのあるお尻を通って太ももへとつながるタイトスカートの流線型、そしてさらに遠く離れた地面までをすぅっと結ぶ2本の脚、一つ一つを思い浮かべると、程なく僕のペニスは完全に反り返り、伸縮性の高いパイロットスーツをグイと持ち上げた。
モニタに映し出されている彼女は自然に整ったボブの艶やかな黒髪に、片側だけがスピーカになっているヘッドセットを装着している。意志の強さを感じさせる吊り目を中心に整った顔は、決して華やかではないが、静かに佇む湖のような凛とした存在感を放ち、薄く結ばれた唇の少し下に位置するヘッドセットのマイク、また彼女の声が発せられているのだと思うと、僕のペニスはいつ果ててもおかしくないほどに腫れ上がっていた。
このままイクのも悪くない。戦闘機のスロットルを引きながら心底僕はそう思った。ここはいつ敵機と遭遇してもおかしくない戦闘宙域。どうせ自分は衛星都市出身の宇宙人で、地球生まれである彼女への想いが叶うことなどありはしない。それならいっそ今ここで彼女への妄想の中で果ててしまいたい。不謹慎とは理解しつつも、このような状況下で劣情と勃起を維持できるのは、生物としての生存本能がすぐ傍にある死を感じ取り、生への執着を具現化しているからなのかもしれない。その時だった。
「助けて!敵機の奇襲が、きゃあー!」
ザー、という音とともに画面は真っ白になる。全くの不意に届いた彼女の声に、僕は不覚にも果ててしまっていた。パイロットスーツの下で何度も波打ち、精液を吐き出すペニス。ほんの数秒前まで望んでいたことをこんなにも後悔するとは。
無残に放出された精液はしかしパイロットスーツ下の船外活動用オムツに吸収され、跡形も残らない。僕は射精の余韻を強引に拭い去って操縦かんを握った。機体はその場で急速反転し、月面基地へと最大加速で向かった。
月面基地はひどい有様だった。敵の奇襲を受け、陥落寸前。基地上空に展開していた敵機隊の間隔を縫い、一気に格納庫へと突っ込む。隣の機密エリアがガラス越しに目に入る。彼女だ。敵兵士たち数人に捕まり今にも襲われようとしている。機体を機密ハッチに接続し、一気に機密エリアに飛び込む。不意をつかれた敵兵たちに向けて、常備の拳銃で否応無く弾を打ち込む。一撃の出来事だった。
落ち着いて見渡すとこの機密エリアには数え切れないほどの味方、地球連合兵士たちの亡骸と、普段からは想像できないほどに服も髪も乱れ、ぜいぜいと肩で息をしながら宙を漂う彼女。
「救出に参りました。自分は第23師団、3番隊の、カイ=ヨシミ伍長・・・・・・」
ガッ。突如予想外の力で抱き付かれた。どうしていいかわからない。つい数分前、自分を射精に導いた妄想の、その本人が目の前にいる。しかも、自分の胸に抱きついている。僕は両手の行き場を失ったまま、必死に平静を保とうとした。
「・・・・・・・怖かった・・・・・・、」
彼女は消え去りそうな声でそう言った。そしてゆっくりと顔を上げる。ぼろぼろと涙をこぼし、髪を乱し、ぐしゃぐしゃに表情を崩した彼女の顔が、僕の目の前にあった。
「あっ」
思わず抱きしめてしまった。目の前にいる彼女が愛おしくてしょうがなかった。しかし、彼女の声に慌て、僕は手を離してしまった。
「失礼しました!あの、決してそのような。とにかく脱出しましょう」
言うなり僕は彼女の手を引いて、一人乗りの自機に乗り込む。
先にシートに座り、後ろからかかえるように上に彼女を乗せる。緊急通路を通って、敵機隊の展開していない安全圏まで距離をとる。ほっと、息継ぎとともに体の力を抜いたところで、前にいる彼女が上体をひねって僕の方に向いた。不意に自分のおかれた状況に意識が戻った。少しは落ち着いたものの、泣きはらし、今なお潤んだ瞳を僕に向ける彼女の顔。ひねった上半身の乱れたシャツから胸元が大きくのぞき、左の胸のふくらみが僕に押し当てられている。お尻とふとももは捩れの位置で僕の太ももの上に。さっきまで頭に上っていた血が一気に下半身に集まるのがわかる。
(ダメだ、今は、)
必死で意識をそらそうとするも、はじめて女性の、彼女の匂いが鼻に。右手が僕の左腕を。左手は太ももを。無常にも僕のペニスはこれまでで一番大きく、硬く、そして高くいきり勃ち、彼女を上に持ち上げてしまう。
「きゃっ」
もうだめだ、気付かれた。ふンむっ。・・・・・・信じれられないことが起きた。彼女の口が僕の口をふさいでいる、唇で、キスを、舌が入ってくる。頭の芯がとろける。何時間に何十時間にも感じられる数秒が過ぎ、彼女の唇が僕から離れた。
「・・・・・・ありがとう。キミ、カイ君?」
憧れの声が自分の名前を発音していることにさらに劣情を掻き立てられる。戸惑いながらもぎこちなく首を縦に振る。
「キミ、あたしのこと、見てたでしょ」
まさか。
「キミにだけ届いたんだよ、あたしの声。だから、あたし」そう言って彼女はまた僕の首にしがみつく。
「触って」
耳の真横から発せられたささやきに、僕は抗うすべを知らなかった。左手で不器用にひとつずつシャツのボタンをはずし、露わになった淡い桃色のブラジャーをさらに手間取りながら外す。無重力の中にふわふわと揺れる乳房をつかまえる。
「あん」
彼女の口から、言葉にならない声が漏れる。右手が掴まれゆっくりと両の太ももの間を抜け、さらにスカートをたくし上げるように僕の手を引き込んでいく。
「ここも」
もう僕は彼女の操り人形だ。左手をゆっくりと乳房の上で動かしながら、右の手で彼女のタイトなスカートをたくし上げ、下着の中に滑り込ませる。彼女のヴァギナはしっかりと熱を帯び、もう、ぐちょぐちょに濡れていた。その時彼女の右手が僕のぱんぱんに膨脹した男根をそっと包んだ。ああ・・・・・・。彼女の手の中でどくんどくんと波打ちながら快感の波が放出される。こんなに、こんなにも幸福な射精があったのだ!
「ねえ、あたしの手、気持ち良かった?」
必死に口を開き、言葉をひねり出す。
「う、うん、最高だった」
ふっと吹き出す彼女。
「あたしね、キミの声、好きだよ。」
少し離れてお互いの服を脱がしあい、体を入れ替えて彼女をシートに。両足の間から腰を滑り込ませ、覆いかぶさるようにゆっくり彼女の蜜壺に自分をうずめていく。
「んっ・・・」
漏れ出る吐息が耳に飛び込んでくる。もう僕の理性は無い。
彼女の長い足を両脇に抱え、背中をつめたいキャノピーに押し当てて体を固定し、無我夢中で何度も彼女の中を行き来する。
「あ、んっ、はぁ、げしぃ、よぉ、んんっ」
僕の背にまわった腕が力を増し、唇を、胸を、腹を、腰を、全身を僕に押し付けてくる。
上気した息遣いと、吸い付くような肌と、彼女の中の自分だけが僕の感覚の全てとなる。ああ、もう果ててしまう。
「はっ、はっ、あ、ふっ、ん、あっ、待っ、や、まだっ、ダメ・・・・・・」
彼女の長い足が背後で絡まり僕の動きを止める。さらに全身をぎゅーっと押し付けてくる。
「待って、ぎゅーってして」
言われた通り、僕は力いっぱい彼女を抱きしめ、自らの猛りをこらえる。
「一緒に、一緒、に、イこう。」
彼女がゆっくりと、ゆっくりと腰を動かし始める。段々と回転半径を大きくしながら。
「うん、でも、どう、したらいい?」
「あたしが、合図、ん、する、からぁ。ね、、、んン、んぁ、ああっ、アッ、名前、ソラっ、て、えぇ、呼んでぇ。」
「ソラ、ソラ、ソラぁぁぁ!」
背中に宇宙の、無の、死の冷たさを実感しつつ、ただ、ソラの肢体を全身で感じながら、僕も一心不乱に腰を動かす。
「さんンッ、にぃィ、あン、アッ、いちィい、は、ふぅんン、発射、ぁ、ああぁあぁあ!」
――了解。
言葉にならない返答を乗せて、絶頂と至福と恍惚と、全てをソラに注ぎ込む。強く、強く抱き合って、ひとつになってしまいそうなくらいに。
ソラから外れたヘッドセットが、二人のとなりで静かに、静かに回っている。