85年ぶりの夏の甲子園へ。古豪・呉港を率いる元カープ・片岡監督の思い
夏の甲子園の頂点を知る学校が広島に2校ある。1校は全国で2番目に多い6度の優勝を誇る広島商業。もう1校は1934年、第20回大会で王者に輝いた“呉港”だ。
のちに初代ミスタータイガースと呼ばれる藤村富美男さんを軸に呉の街に優勝旗をもたらした。これまで春5回、夏6回の甲子園出場経験がある呉港だが、聖地の土を踏んだのは1963年のセンバツが最後。夏の出場に至っては1937年、戦前までさかのぼらなければならない。
古豪復活へ。再建を託されたのが元プロ野球選手の片岡新之介監督、74歳。
カープで17年間コーチを務め、社会人野球でも指導経験がある。2019年12月に呉港の監督に就任した。様々なカテゴリーで現場に立ってきたが、高校野球の指導は初めてだ。
子どもたちとは50歳以上の年齢差があるが、「溝は感じない」という。選手も着実に力を付け、昨春の県大会では25年ぶりに準優勝。夏は5年ぶりに4回戦まで勝ち進んだ。
高校野球を指導し3年目を迎えた片岡監督。実戦で結果は残っているが、就任当初とは違った感情も芽生えていると話す。
「やっぱり“思い”がある子。思いの強い子と戦いたい。勝ちたい!グラウンドでプレーしたい!普段からそういう思いで生活している子ですよね。もちろん私たちももっと“思い”を持たないといけない。子どもたちも私たちを見ていますから」。
いくら潜在能力が高くても気持ちが伴わなければ真の力は発揮できない。百戦錬磨の指揮官は人間を突き動かす根底の部分、心に重点を置く。
蓄積された経験に基づく指導法は選手との信頼関係も強固なものにしている。春の大会で背番号1を背負った2年生・熱海諒投手は「僕は投球時に上体が突っ込む癖があったが、軸足で立ってからトップを作るまでをゆっくりとしたモーションにしたらリリースが安定してコントロールできると言われ実際に良くなった」という。
プロ12球団のスカウトが視察に訪れた高校通算40本塁打超えの注目スラッガー・田中多聞主将(3年)は、「指導がとにかく丁寧。自分たちが分かるまで教えてくれる。一方で基本を伝えて、そこからは僕たちに考えさせる。うまくなりたいと高い意識を持っていれば自ずと工夫する。監督は選手のそういう部分を信じていると思う」と恩師について語る。
今春の県大会はベスト4。夏は2年連続シード校として臨む。85年ぶり夏の甲子園出場へ「良い顔をしてやりたいよね」と片岡監督。
「やっぱりちゃんとやっている人じゃないと良い顔はできない。選手の表情は鏡だと思う。挑戦する気持ちをもってやっていきたい」。呉港のグラウンドでは引き締まった良い顔で選手たちが練習に励んでいた。