放送番組審議会

第495回

開催日:2020年4月20日(月)発議 4月27日(月)審議終了
【課題番組】
ドキュメント広島
ピカドン先生、令和も生きる

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、緊急事態宣言が発令されたため、4月21日に予定していた放送番組審議会について、下記の通り、書面やメールを使って審議を行った。

 

番組について

ヒロシマの被爆者を代表する存在である坪井直さん(94)
昭和20年8月6日、20歳の時に被爆。1カ月以上意識不明となりましたが、奇跡的に回復。教員となり、“ピカドン先生”と名乗って、生徒に被爆体験を語ってきました。
平成が終わり令和が始まったこの1年間、坪井さんは原爆症による極度の貧血のため、ほとんど外出ができませんでした。そんな坪井さんに、ホームテレビは、1年を通して、ひっそりと取材を続けさせてもらいました。
外に出ることはできません。体調の悪い日は連絡がつきません。会えた時には、「わしはあすにも死ぬるかもしれん」と、まったく笑えない冗談を口にします。
消えない原爆の記憶、原爆症で苦しんだ時代から後押ししてくれた教え子たちとの絆、思い入れのあった原爆資料館のリニューアル、平和宣言、そしてローマ教皇の広島訪問に思うこと…。

 

番審委員

前川功一委員長、小川富之副委員長、大井美恵子委員、河合直人委員、前田昭委員、見延典子委員、藤本慎介委員、山平慎一郎委員

 

レポートでの意見
  • ローマ法王の広島訪問時における演説に対して、氏の「言葉が難しいのー」という短い感想が印象に残った。被団協理事長として、頑固で激しい主張を繰り返しつつも、他方では教え子たちとのユーモア溢れる会話には人情味のある親しみやさが現れている。このような氏の人となりを描き切っている点を高く評価したい。
  • 「語れなくなった語り部」という言葉が強く印象に残った。原子爆弾の被害を受けた「被爆者」から、原爆を体験したことのない「非爆者」に向けられた最後のメッセージとして強く心に響くものがあった。
  • 20歳の時に被爆された、坪井 直さんの核兵器廃絶運動30年の集大成の番組であった。NHK以外の民放でスポットを当てたのは初ではないか?良くここまで取材をされたな、と感じる。まるで家族に語りかけられるような、一歩踏み込んだ番組であった。
  • 原爆の悲惨さは、この番組からは伝わってこなかった。しかし、それで良い。8月6日向けのドキュメントであれば失敗作であるが、平和活動家の凜とした生き方を伝え、間接的に被爆者の高齢化による伝承の難しさ、平和活動の重要さに思い至らせるドキュメントとしては、秀逸である。
  • 「皆が手を取り合って」との坪井氏の考えは、現在、足元で世界が直面する新型コロナウイルスやパンデミックリスクに対して、世界が政治・経済問題を乗り越えて一致団結して解決していかなければならず、健康や平和が何よりも優先するとの重要な示唆をもたらしてくれた。
  • 番組の最後。タイトルバックで音声だけだったが、「また来年お会いしましょう」という取材者の呼びかけに、坪井さんは「来年のこと言うたら、鬼が笑う」と答えている。闘わずして「核廃絶など不可能だ」と冷笑する人々に、「ネバーギブアップ。そんなことはわからない」と戒めているようにも聞こえた。そんな余韻をもたせた、素敵なエンディングだった。
  • 坪井氏は非常に存在感のある人なので、過去の映像を適当にピックアップして並べるだけで訴える力のある番組ができてしまう。常に新しい切り口を追求して欲しい。
  • 後半生を被団協とともに歩んだ〃坪井直さん〃を借りながら、「世界で最初の核の被害者であるヒロシマの人々は、地獄をみた。原爆症に苦しめられた。だから被爆廃絶を訴え続けていかなければならない」という一般論的被爆番組で終わっているところに、この番組の弱さがあり、もろさがある。広島の視聴者は、もはやこの種の一般論的被爆番組に辟易していることを、テレビ局は自覚すべきだろう。