放送番組審議会

第523回

開催日:2023年2月21日(火)
【課題】
「紙芝居でつなぐ赤レンガの記憶」(2022/12/29放送)
出席委員(敬称略):

小川富之、河合直人、井筒智彦、大井美恵子、喜多村祐輔、木村文子、武井三聡子、東山浩幸

 

合評での意見

【総合批評】

  • 93歳の被爆者の方と21歳の大学生の交流を丹念に追った取材が結実した番組。
  • 「被害と加害」という点を番組の中心に据えて、そこからぶれることなく最後までいっているので、非常に見やすく分かりやすい。
  • 加害の町だから狙われたというところにフォーカスして、この番組を企画したのは、昨今の世界情勢の中で、戦争について、過去の広島を見て、私たちがどのように考えればよいかということを視聴者に問いかけた、大変意味のある番組だった。
  • 全体を通して、「証言する93歳と受け継ぐ21歳」「被害と加害」「工員とウサギ」「原爆ドームと被服支廠」など視聴者に多様な視点を与え、重心が偏らずにバランスが取れていたのがよかった。
  • 大学生、平和学習の影響を受けた子たちが、どれだけそういう思いを持っているかということに焦点を当てた番組をあまり見たことがなかった。大学生を取り上げられたところは凄くよかった。
  • 佐藤さんの「事実と被害者(被爆者)の気持ち」ということも大事なことで、主観的なことばかりだと客観性が担保できない面がありますし、事実だけだとすると表面的で視聴者に伝わらないという悩みどころだと思う。
  • 深い悩みをテーマとして挙げているのだが、途中で「楽しさや面白さも必要だ」というアドバイザーの言葉があった。これは枝葉の部分の悩みに関するもので、テーマから少し外れてしまった。佐藤さんの悩みが、どう面白くしようとか、どう表現しようとか、そういった小さなことに誤解されるというのがもったいなかった。
  • 「倉庫は声を出すことができませんが、一つ一つの物語に目を向け、想像することで、被服支廠は歴史を語り続けます」という最後の3行の文章は凄くインパクトが強く、ぐっと引き締まった。
  • ウサギがメインで、本当だったら声を出すはずのない被服支廠が擬人化されていて、小さい子どもにも分かりやすい。だけど思いは、多分10人いたら10人とも違ったと思う。見る者にとって色々な捉え方ができるような番組作りは非常によかった。

【批評ポイント】
佐藤さんが継承したかったもの、紙芝居づくりの苦悩が伝わったか

  • 非常に意識の高い学生さんだと思う。ボランティアとして遺品整理などもしている。その反面だからなのか、苦悩という部分でいうと、私は苦悩までは感じられなかった。
  • 絵本作家のいくまさ鉄平さんから「ちょっと言葉が足らんような気がするんだよ。原爆が使われたらどうなるのかという想像が足りない」という発言は重い指摘。「試行錯誤で何度も練り直します」というナレーションで続くのではなく、もう一歩踏み込んで佐藤さんの内面を話してもらえたら、より苦悩が伝わるのではないか。

被爆者・切明さんが継承したい「被服支廠の存在意義」「被害と加害」への思いが伝わったか

  • 切明さんの語っている、実は「加害」であったことというところを後世に伝えていく姿というのは、広島出身者としても考えさせられるような内容だった。
  • 子ども時代の切明さんから佐藤さんへバトンを渡して、佐藤さんが紙芝居の絵を描いた子どもたちに優しい言葉で伝えるというのが、戦争の記憶が上手い感じでリレーをされていると感じた。
  • 「被害と加害」という言葉を止めて、それ以上、それが良かっただの悪かっただのということを言わなかったのがよかった。

【批評を受けた制作側の説明】

  • 実際に子どもたちも一緒に関わって、大学生の仲間もいて、その仲間の気持ちの変化というのもありながらというところは少し薄くなったが、本当にみんなで考えながら作ることで平和への思いを深めていくというのも佐藤さんの狙いであり、そこが少しでも伝わればと思って制作した。
  • 最もとがった「切実さが足りないよ」というところのアンサーがしっかり、こう変わりましたというところはあって、そこのところを一番立てた紙芝居の最終版のところではあったのですが、そこの伝え方が、確かにもう少し伝えられればよかったなと改めて思った。

以上