第538回
開催日:2024年7月25日(火)
【課題】
地上波テレビに求められる災害・気象報道のあり方
地上波テレビに求められる災害・気象報道のあり方
(テレビ朝日系列局放送番組審議会の共通課題)
出席委員(敬称略):
小川富之、河合直人、井筒智彦、稲田信司、大井美恵子、喜多村祐輔、木村文子、東山浩幸
合評での意見
【全体】
- みんな困った時には、SNSよりも情報の確度が高いテレビから入手したいと思う。平時の番組づくりが、有事に「頼られる存在」になるかどうかに関わってくる。
- SNS等ができないことは何なのか、地上波テレビの立ち位置や役割は何なのかが問われているのだろう。
- 地上波テレビと比べるとSNSのほうが全体的な情報が届くのは速い。また、局所的な情報もSNSのほうが速い。逆に地上波テレビを多くの人が見るのはなぜかというと、情報の質や公共性の高さを期待しているからではないか。
- 地上波テレビはSNSなどと違って正確性が担保されているので信頼できる情報が提供できる。また専用機材や災害報道の経験があるため、きちんとした取材ができるテレビの特色を生かしてもらいたい。
- 日頃から防災の教育や訓練、必要な備えについて報道してくれると、少しずつではあるが考え方が変わってくるのではないか。
- 地域に根差した情報、各避難場所の現状や物資の状況、人手が足りているかといった情報は地域に密着しているからこそできる報道。そして風化させないために記録化しておくことも、地域のテレビ局だからこそ被災した現場に長期取材やドキュメンタリーを残すことができる。
- テレビ局として今の信頼性を担保していきつつ、速報性を高めていき、かつテレビ局でしかできないことを普段から続けていってほしい。
- 国や行政の施策があったからこそ助かった、という前向きな評価も大事ではないか。そのようなことも視聴者に伝えて、税金を災害対策に投入することに対する民意を高めることも必要。
【批評ポイント①】
命を守るため、防災・減災のためにできることは何か
- 日頃から防災・減災に対していろいろアクションをしていくということであれば、例えば毎週、防災コーナーがあってもいいのではないか。防災士のワンポイントアドバイスなどがあれば、日頃から意識を高めることにつながる。
- 防災についてかなり分かりやすく伝えようという意思を感じるが、さらにブレークダウンしたものを期待したい。そして、それを夕方のニュースなどで習慣化していくというのが非常に重要。
- 折に触れて防災の啓発番組などを放送することが大切。
- いわゆる防災・減災を四角四面に上から伝えるよりも、むしろ自分事として捉えられるように、子どもから大人まで分かるような伝え方を期待したい。
- 直接被災者の声を届けること、事実を伝えることが一番大事。例えば防災グッズを持って家を出る余裕があったのか、防災グッズは実はこういうものがあったほうが良かったなど、被災していないと分からないことを生の声で伝えてもらうことが私たちの心に一番訴えることではないか。
- 災害時にどうやって連絡を取るか。ネットがつながらない可能性もある。テレビも電波が届かない可能性も十分あるだろうし、電話がつながらないというのも過去にはよくあった。したがって、その周波をどうやって送っているのか、テレビ塔やネットの無線、また海底ケーブル、このような情報に対する国民のリテラシーを上げるような番組、知識の醸成が求められる。
【批評ポイント②】
災害が起きた地域の復興のためにできることは何か
- 災害の記憶の風化に抗う報道が重要。例えば、被災地の定点観測的な報道。特定の地区に継続的に張り付いて、Aさん、Bさんの人生や役所がどのように動いたのかを記録し、繰り返し報じていく。これは被災地だけではなくて被災者も対象。新聞の震災報道で、Aさん、Bさんの話を読むことによって自らが生きる力をもらったという声もある。
- 女性医師のボランティア団体があるが、発災時にどこに行ったらいいのか連絡場所も分からないことがほとんどで、行動を起こす前に何もできずに終わってしまうことが多い。被災地の人たちは対応する余裕がないため、客観視できるメディアから情報を発信してもらえる術があったらいい。
- 被災時に幼稚園児だった子が小学生になり、みんなでハザードマップを作ってみようという企画があった。被災当時は幼くて受けた衝撃は何となく残っているものの、自分の家がどれだけ危ないかは分かっていない状況だったが、年齢を重ねていくうちに防災への意識が変わることをその取り組みを見て感じた。
- 被災地の様子を丁寧に報道していくことで、遠くに住んでいる人も被災地の状況が確認できるし、励ましのメッセージを受け取れる。これは精神的な支えになるし、被災地の支援やボランティアの呼びかけにもつながる。
【批評ポイント③】
いま、地上波テレビに求められる災害・気象報道のあり方は
- アナウンス技術に関する知見がある中で、例えば広島の中でも局の垣根を越えて技術を共有することが必要。いざという時のアナウンサーの伝え方は大切であり、技術向上に向けたトレーニングや知見の共有、そしてそれをよりレベルの高いものにしていく努力が日頃から必要。
- ネットを使った災害や防災情報の発信はユーザーが日頃から使い慣れてもらう必要がある。使ったことがないと、急にネットでこのチャンネルをみようとはなかなかならないので、日頃からテレビで報道しているものとネットとのつながりや、若い人にHOMEのYouTubeを使ってもらうような工夫や努力も必要。
- 徹底的に分かりやすさを追求することが大事。いまだに「レベル3ってどういう状態?」「レベル4は?」などと訊かれても困る人が多いと思う。視覚的な素材などを改めて見直して、分かりやすさを追求してほしい。
- 問題提起型の報道に挑戦できるのではないか。データジャーナリスティックな打ち出し方は各社実験的にしているが、より重要になってくる。例えば西日本豪雨のような災害があった場合に、そこの災害予見可能性のようなものをデータから割り出していくことを大学や研究機関とタイアップして試みる。そういった問題提起型のものがあると減災や防災にもつながってくる。
- NHKと民放でお互いに何ができるのか、テレビと新聞は何ができるのか、伝統メディアとSNSはどのようにタイアップできるのかなど、少し俯瞰した視点で見て、新しい可能性を模索できたらいい。
- ヘリコプターの空撮はお金がかかるが、お金がかかるからこそできる分野であり、個人ベースではできない。このような報道の分野を見つけて放送してくれると、社会全体の中で価値が高まってくる。
以上