天皇陛下の晩さん会でのスピーチ【ノーカット】 英国訪問

社会

ロンドンの金融街などが主催する晩さん会で天皇陛下がスピーチを行いました。
お金にまつわるエピソードなどユーモアをまじえた天皇陛下のスピーチをノーカットでご覧ください。
※ナレーションはありません。
※スピーチは英語となります。

【和訳 ~宮内庁より~】

市長閣下
エディンバラ公殿下

御列席の閣下、卿、オルダーマン、シェリフ及びチーフコモナー並びに御来賓の皆様

本日は、私のためにこのような宴を催していただき、心より御礼申し上げます。

このギルドホールを、私は、オックスフォード大学留学中の1983年に一度訪れたことがあります。
また、ギルドホールの図書館には、私が留学当時研究していた18世紀のテムズ川の水上交通史に関する史料集めのために何度か通ったことがあり、研究に有益な史料を見付けることができました。その際お昼時に近くのパブを訪れたことも良い思い出です。
オックスフォード大学での何ものにも代え難い貴重な2年間を振り返る中で、英国の皆様に温かくお迎えいただいたことを改めて思い起こしております。

留学当初は、どうしても英国のお金の扱いに慣れず、ついついコインより紙幣を多く使ってしまい、結果として手元には重いコインをためることとなり、ある時それらが財布から一遍にこぼれ落ちてしまったことがありました。
私は大いに慌てましたが、周りにいた人達が手分けして拾ってくださり、英国の人たちの優しさに触れ、すがすがしい気分になりコレッジに帰りました。
それが今や、英国では電子決済が一般化し、コインどころか財布すら持ち歩かず、クレジットカードやスマートフォンだけで済ます人も多いと聞き、40年という時の経過を感じます。

他方、今回の訪問で変わらないと実感したのは、英国の皆様の温かいお気持ちと、シティ・オブ・ロンドンの活気やエネルギーです。シティと日本との関係を振り返れば、明治時代の幕開け、当時の日本が、世界に先駆けて産業革命を果たした英国から学び、近代化に向けて邁(まい)進していた時代にまで遡ります。
東京と横浜を結ぶ、我が国初めての鉄道の建設費の多くは、このシティで発行した外債により調達され、我が国の経済繁栄のきっかけとなりました。
そして今日(こんにち)では、2017年の「東京都とシティ・オブ・ロンドン・コーポレーションの交流・協力に関わる合意書」に代表されるように、日英の市場間の相互接続や自治体間の連携が強化されており、また、歴代ロード・メイヤーには毎年日本を訪問いただくなど、シティとの協力関係が更なる発展を遂げていることを、大変喜ばしく思います。

日本と英国の経済関係に目を向ければ、現在、900以上の日系企業の拠点が英国に所在し、自動車、高速鉄道、精密機器、通信、洋上風力、金融、不動産、製薬など、実に様々な事業を通じて英国経済で重要な役割を果たしています。
また、約22兆円、およそ1,150億ポンドに及ぶ日英間の直接投資が積み重ねられるなど、経済・投資分野における日英協力は深化を続けています。
こうした両国の密接な結び付きは、人類が直面する課題に対する解を生み出す取組にまで進展しています。
本日、私は、医療・生命科学の最先端の研究所であるフランシス・クリック研究所を訪問いたしました。
ここでは、世界の人々の健康・保健を増進するため、日英両国の研究者が緊密に連携していると伺い、心強く思いました。また、こうした最先端の取組が、クリック博士によるDNAの二重螺(ら)旋構造の発見など、先人たちの努力と偉業の上に積み上げられてきていることに、改めて思いを致しました。

明日は、皇后と共に、V&A(ヴィクトリア&アルバート)子ども博物館を訪れ、日本の自然や民間伝承と、大衆文化・技術・デザインとの関係を取り上げた特別展を視察する予定です。
日本の文化や芸術が、場所と時代を超えて、英国の子どもたちや英国で暮らす日本の子どもたちにどのようなインスピレーションを与えているのか、日英の子どもたちと触れ合いながら、実際に見て感じることを楽しみにしています。

私たちの社会を発展させ、国と国との交流の礎となるものは、人であり、人と人とのつながりです。
日英両国の人々は、人とのつながりを大切にし、先人が築いてきたものを踏まえ、自然や科学、文化・芸術など幅広い事象から発想を得ながら、新たな技術も柔軟に取り入れて、様々な課題の解決に果敢に取り組んできました。
今回の私たちの英国訪問を通じて、両国の人々が、長年にわたる人と人とのつながりに裏打ちされた友好親善の絆(きずな)を再確認するとともに、人類共通の課題の解決のためのリーダーシップを次世代へとつないでいく機会となれば幸いです。

ここに杯を挙げ、ロード・メイヤー御夫妻の御健勝と、シティ・オブ・ロンドンのますますの御発展、更に、日英両国民の末永い友好親善と更なる協力の進展を祈ります。

ロード・メイヤーとシティ・オブ・ロンドン・コーポレーションに乾杯。