日本製鉄“USスチール買収”に暗雲…買収の可否「バイデン大統領に一任」

経済

1年に渡る綱引きが最終局面に突入します。日本製鉄のUSスチール買収計画を審査していたアメリカの政府機関は、一致した結論が出せないため、最終判断をバイデン大統領に委ねることを決めました。日米大企業同士の再編計画は極めて異例な形での決着となります。

■米当局「バイデン大統領に一任」

日本製鉄によるUSスチールの買収。これに国家安全保障上のリスクがあるのか、ないのか。アメリカ政府の審査が23日に期限を迎え、バイデン大統領に判断を一任することを決めました。

バイデン氏の考えはというと…。

アメリカ バイデン大統領(今年4月)
「USスチールは1世紀以上、アメリカを象徴する企業であり、これからも完全なるアメリカ企業であるべきです」

大統領選の最激戦地ペンシルベニア州を舞台にした日米の買収話は、経済的な合理性と政治的思惑が絡み合い、窮地に陥っています。

■岐路に立つ“発展の象徴”

20世紀の幕開けとともに産声を上げたUSスチール。アメリカの経済を支え、中間層の黄金時代を築き上げた象徴的存在です。しかし、生産量世界1位の座を日本製鉄の前身、新日鉄に明け渡すと工場が相次いで閉鎖されました。世界の頂点を極めた巨人は今や業界24位に…。それを世界4位の日本製鉄が買収するというのが今回の構図です。

買収で再起を図りたいUSスチール。破談となればピッツバーグにある本社の移転や工場の閉鎖は避けられないと警告していました。

従業員
「工場が閉鎖されたらこの町は大変です。この町の税収を担ってますから」
「日鉄の支援で規模を大きくできるなら悪い話ではないと思います。同盟国だし“友人”と一緒にビジネスするとなってもいいでしょう?」

地元の市長は当初、不安を覚えたものの、日本製鉄幹部との会談を重ね、賛成に転じたといいます。

ペンシルベニア州クレアトン市 ラッタンジ市長
「USスチールは市の税収の3分の1を占めます。USスチールが去れば家族経営の商店やガソリンスタンド、ピザ屋、薬局など下流の事業も影響を受けます。私たちは地域の雇用をつなぎとめたいだけなのです」

■“生き残り”かけた再編計画

一方の当事者である日本製鉄にとっても2兆円を投じる買収は生き残りをかけた戦いです。人口減少とともに国内の鉄鋼需要は下がり、牽引してきた中国も不動産不況で頭打ちに。望みをかけるのが先進国で例外的に人口増加中のアメリカです。

日本製鉄 橋本英二社長(当時)
「鉄という観点から見ても、1億トン近くの需要を誇る先進国で最も大きな市場であり、これからさらに成長が見込める市場」

その成長市場に踏み入れるには足場が必要です。アメリカでの事業を検討する中で浮上したのが、USスチールの身売り話でした。

日本製鉄 橋本英二社長(当時)
「外国の民間企業がグリーンフィールド(更地)から作るのはオールモストインポッシブル(ほぼ不可能)。(USスチール買収は)当社にとって条件が合う案件」

■立ちはだかった“米大統領選”

当事者と地元が進めたい買収。これに待ったをかけたのが大統領選の候補者たちでした。

アメリカ トランプ前大統領
「70年前に遡れば、USスチールは圧倒的なまでに偉大な会社だった。それを日本が買収するという。認めるべきではない」

同様にハリス氏も買収に反対姿勢を打ち出しました。鉄鋼業界の労働組合が反対する以上、買収を容認するのは政治的にタブーとなっていたのです。

複数の省庁で構成される政府の委員会の見解は、買収で国内の鉄鋼生産量が減り、国家安全保障上のリスクにつながる可能性があるというものでした。バイデン大統領は15日以内に最終判断を下すことになります。

■15日以内に判断へ“訴訟”発展も

大統領が熟慮することを強く要望するとのコメントを出した日本製鉄。幹部からは、こんな声が…。

日本製鉄幹部
「万万が一、最終的に理不尽な結論が出れば訴訟も辞さない」