【能登地震1年】“100年に一度の雨”重なり…被害拡大 検証“地震と豪雨”の脅威

社会

 震災からおよそ9カ月後のことでした。鈴屋川が氾濫したことで、町ごと濁流にのみ込まれ、3人が犠牲となった石川県輪島市町野町。カメラが捉えたのは、複合災害のメカニズムの一端。地震と豪雨、能登地方を襲った複合災害。なぜ、被害はここまで拡大したのでしょうか。あの日何が起きていたのか、検証します。

 先月、土砂災害を専門に研究する防災科学技術研究所の酒井直樹上席研究員と現場に向かいました。その爪痕はいまだ、深く残っていました。

 大量の木や土砂が鈴屋川に架かる五里分新橋に引っ掛かり、川の流れをせき止めたことが氾濫する要因の一つとなったといいます。

 そして、上流へ向かうと、豪雨が襲った9月21日に何が起きていたのか、徐々に明らかになってきます。

防災科学技術研究所 酒井直樹上席研究員
「9月の大雨で崩れています。この奥に土砂の供給源があって、土砂の量が増大する原因になっている」

 鈴屋川上流の本流と支流が合流する地点では、山肌が大きく崩れていました。さらに、酒井研究員が指摘するように、支流の上流部分で起きていることを見ていくため、ドローンを飛ばします。

 地上からでは見えない部分が見えてきました。ほぼ手付かずの状態です。

酒井直樹上席研究員
「谷をふさぐような形になっています。両側から土砂が出てきて谷を閉塞して後ろに水がたまりやすい状況」

 山から崩れ落ちた土砂や木々は、一時は谷を流れる川の流れをせき止めてその場に堆積(たいせき)しますが、雨が降ることによって下流へと流されていくといいます。さらに上流へ進むと…。

酒井直樹上席研究員
「(Q.ここの部分は地震で崩れた所?)これは地震です。右側の方が雨っぽい。地震の時に崩れたようには見えない」

 地震で崩れた場所と、豪雨によって崩れた場所が混在していました。

酒井直樹上席研究員
「地震によって大きく揺さぶられた後、100年に一度のような豪雨が来ると、こういう事が起きてしまう」

 1月の地震発生後に撮影された画像を基にした地図です。黄色い部分が、土砂などの堆積や斜面の崩壊などを示しています。

 鈴屋川の下流周辺では、土砂の堆積はほとんど見られませんでした。しかし、この時点で上流では異変が起きていました。大量の土砂が堆積している様子が分かります。この土砂が9月の豪雨で木々とともに大量に下流へと流れ出し、鈴屋川の氾濫につながったとみられます。町野町全域を見ても、山間部に土砂が堆積していた様子が分かります。

 さらに、9月の豪雨の後に堆積した土砂を赤色で上から重ねます。地震で崩れた地点と豪雨で崩れた地点は隣接している箇所が複数あり、地震の被害と豪雨の被害は密接に関係している可能性が高いことを示しています。

酒井直樹上席研究員
「(地震の影響で)土砂として潜在的に流れやすいものがある。この後、豪雨が襲うと流れやすいもの、弱い所がどんどん流されてしまう」

 では、大雨が降った時、鈴屋川の上流に堆積していた土砂はどのようにして流され、被害をもたらしたのでしょうか。水害のリスクを専門に分析する研究機関の協力を得て、私たちは上流と下流、2つの地点を想定した検証実験を試みました。

酒井直樹上席研究員
「山の中腹を見立て、7°の傾斜をつけた模型を作ってあります」

 地震により発生した斜面崩壊により、土砂が堆積し、川の流れがせき止められた状態の谷を再現しました。1月の鈴屋川上流の状態にあたります。赤と黄色の棒状のものは、流木を再現しています。

 豪雨を想定した大量の水を流すと…。水量が土の高さを上回ると、一瞬にして崩れ、下へと流されていきました。鈴屋川の支流でも、堆積した土砂や木々は豪雨によって下流へ運ばれた痕跡がありました。

酒井直樹上席研究員
「(水が)乗り越えだしたら一気に土砂を巻き込んで、短時間で流れた。強い雨が降り、水が一気に来た時、あっという間に土砂を流してしまう」

 続いて、この土砂が流されたことを想定した下流での実験。鈴屋川は、およそ40分の1のスケールで再現しました。氾濫する要因の一つとみられている五里分新橋などの模型も設置しました。先ほどの実験同様、豪雨を想定し、大量の水と流木に見立てた棒を流していきます。

 豪雨災害が発生した日に撮影された映像にも、流木が橋に引っ掛かる様子が記録されていました。直後に鈴屋川は氾濫し、町は濁流にのみ込まれました。

酒井直樹上席研究員
「地震が起きた後、100年に一度の豪雨が起きたということは聞いたことがない。指摘はずっとされてきました。地震が起きた後、雨が降ったら危ない、融雪時期が危ない。今回、100年に一度の雨が重なって、どんなことが起きるか分かってきた。雪解けの水で斜面が崩壊したりする。水が一気にたまって流れてくる」

 9月の豪雨災害で、懸念していたことが現実のものとなってしまいました。能登半島の山間部では今も至る所に不安定な土砂が堆積していて、1500カ所以上で地盤に変化が起きているとみられます。なかにはいつ崩れ出してもおかしくない場所もあるといいます。

酒井直樹上席研究員
「次の雨、次の地震、次の雪、次に何が起きるか具体的にイメージしながら情報をどう伝えるかが課題」

 日本は全国で地震が頻繁に発生し、近年では豪雨も増えています。いつどこで起きるか分からない複合災害に、私たちはどう備えればいいのでしょうか。