【グリーンランドにパナマ運河】軍事力行使も示唆“トランプ会見”領土野心の思惑は?

国際

米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で、1月7日から続く山林火災で、日本時間の12日現在で、地元当局は16人が死亡したと発表した。英ロイター通信によると、民家など1万棟以上が焼失し、約15万3000人に対して避難命令が出された。焼失面積は、東京・山手線内側に占める面積の2倍以上に相当する約150平方キロ・メートルに及んでいる。沿岸部に位置するパシフィック・パリセーズとアルタデナの両地区で発生した火事は、急速に燃え広がった。消防当局などによる懸命な消火活動が行われている。

トランプ次期大統領は9日、自身のSNSで、「火災は3日間にわたって急速に広がっており、鎮火はゼロ。これほどの失敗を見たことがない。ギャビン・ニューサム州知事とロサンゼルスのカレン・バス市長は全くの無能だ」と民主党所属の2人を厳しく非難した。また、トランプ氏は10日には、「バイデン政権が温暖化対策などで予算を無駄遣いしているため、災害対応を担う連邦緊急事態管理局(FEMA)の予算がなくなっている」と語り、一連の猛威を振るう山火事への対応をめぐり批判した。カリフォルニア州は強固な地盤を維持する民主党の牙城となっている。2024年11月の大統領選で、カリフォルニア州では、共和党のトランプ氏は38.3%、民主党のハリス氏は58.5%の得票率となっていた。

首都ワシントンで9日に執り行われたカーター元大統領の国葬会場で、参列したトランプ氏とオバマ元大統領が話をする場面が見られた。双方が批判・牽制を重ねてきた経緯があるだけに、多くの注目が集まった。トランプ氏は何度もオバマ氏に話しかけ、時折、両者が笑顔を交わした。国葬には、バイデン大統領とハリス副大統領をはじめ、歴代の正副大統領らが参列した。また、トランプ氏は、不仲となっているペンス前副大統領と握手を交わした。ペンス氏は2021年1月6日に米議会で行われた2020年大統領選結果の認定をめぐり、トランプ氏に対して、「敗北を認めるべき」と発言したことを契機に、その後、両氏の関係は悪化した。

トランプ氏は7日の会見で、米国がデンマークの自治領グリーンランドを領有するために、軍事行動や経済措置も辞さない可能性を示唆した。また、中南米のパナマ運河を巡る管理権の返還要求を行うことも明らかにした。米国はグリーンランドを戦略的に重要視しており、ピツフィク宇宙軍基地を設置していることもあり、軍事的な要衝と捉えている。レアアース鉱石の埋蔵量は、世界最大規模と見られ、米国と同等と評価されている。グリーンランドは、面積は日本の約6倍、人口は約5万7000人で、1979年にデンマークから自治権を獲得した。トランプ氏は政権1期目の2019年に買収計画を提案し、デンマークのフレデリクセン首相に、「グリーンランドは売り物ではない」と一蹴され、買収断念に至り、外交摩擦となった経緯がある。トランプ氏は7日の会見で、「我々は国家安全保障のためにグリーンランドを必要としている」と強調した。

トランプ氏の長男、ジュニア氏は7日、グリーンランドを観光目的で訪問した。ジュニア氏は、「グリーンランドは米国とトランプが大好きだ。素晴らしい人々で、歓迎も素晴らしい」とSNSに投稿した。ジュニア氏は、現地のホームレスの人々をはじめ社会的に弱い立場にある人々に、MAGA(MakeAmericaGreatAgain)の帽子を配り、無料の朝食会に招待した。トランプ政権1期目にグリーンランド獲得案を助言したのは、米大手化粧品メーカー「エスティ・ローダー」の元取締役のロナルド・S・ローダー氏。トランプ氏とは、ペンシルベニア大学時代の学友でもある。ローダー氏は、トランプ氏とグリーンランドについて議論していると明らかにしており、「デンマーク政府と交渉のための裏のパイプ役になる」と自ら申し出たという経緯がある。

トランプ氏がグリーンランドの買収に向けて、軍事力の行使も排除しないと発言したことに対し、欧州首脳が一斉に反発した。ドイツのショルツ首相は7日、「国境不可侵の原則は、どんな国にも適用される。どんなに小さな国でも、どんなに強力な国でもだ」と批判した。また、フランスのバロ外相も7日、「欧州連合が世界の他の国々に自国の主権国境を攻撃させるのは当然のことだ」と強調した。これに対して、イタリアのメローニ首相は9日、トランプ氏のグリーンランド領有発言などをめぐり、「今後、数年のうちに、米国が領土を強制的に併合しようとすることはないだろう」と見解を示した。

★ゲスト:鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)、小谷哲男(明海大学教授)
★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)