自分の生みの親は誰なのか。67年前の赤ちゃんの取り違えを巡り、裁判所が東京都に親の調査を行うように命じました。
■新生児取り違え 都に“親探し”命令
江蔵智さん(67)
「(Q.両親に会えたら何を伝えたい?)両親にですか。それは会って相手の目を見て。僕の口から何が出るかというのは、お会いしてみないと何とも言えない」
判決を受けて21日会見に臨んだ江蔵智さん。67年前、都立の産院で発生した赤ちゃん取り違え事件の被害者です。
江蔵智さん
「DNA鑑定をして親子関係がないと思った時から…両親の顔が見たい」
あの日、抱きしめてもらえるはずだった生みの親に近付くことができるかもしれない。東京地裁が21日、そんな判断を下しました。
江蔵智さん(2021年)
「正月に親戚が集まると、よく言われました。お前は誰にも似ていないと」
違和感が決定的になったのは46歳の時。A型だと思っていた母親の血液型がB型と判明。組み合わせの矛盾が明らかになったのです。その後、受けたDNA型鑑定では…。
江蔵智さん(2021年)
「僕の体には父の血も母の血も一滴も流れていないということなので、生まれた時に(取り違えられた)と思いました」
予感は的中していました。江蔵さんが生まれた日は1958年4月10日。場所は、現在は廃院となっている都立墨田産院です。
そこで、赤ちゃんの取り違えが起きていました。江蔵さんは2004年に東京都を提訴。2006年には東京高裁が取り違えや都の過失を認めましが…。
江蔵智さん(2021年)
「(Q.判決後に変わったことは?)何もないです」
当時の石原慎太郎都知事は、判決を受けて…。
石原都知事(2006年当時)
「(Q.東京都としては、真実の両親を捜すという点をどう考えますか?)一生懸命言ってるけどね、開示請求の問題はあるかもしれません。しかし、今までそれが実際に行われていて、こういう場合、黒塗りの部分がある。だから、それで開示請求して同じような真っ黒に塗られたのが来たって、何の捜査の手掛かりにもならんじゃないですか」
「(Q.そういうなかで、東京都を…)それでもあえてしろっていうの?責任を取って賠償を払うしかないじゃないですか」
■“生みの親”どうやって調査?
江蔵さんは戸籍に関する資料などの開示を都や墨田区に求めましたが…。
都の担当者(2018年)
「相手方の人生に関わる問題であることに加えて、本件に関わりのない方のプライバシーに影響することであり、ご要望にお応えすることができない」
江蔵智さん(2018年)
「『相手方の人生に関わる問題』。私の人生はどうなるんですか?」
困難を極めるなか、迎えた今月21日の裁判で…。
生みの親を知りたい、江蔵さんの思いに沿った判決が言い渡されました。
■生みの親調査「2つのハードル」
ただ、この先の調査には乗り越えるべき2つのハードルがありそうです。
江蔵智さん
「どちらの病院で生まれたのかと。自身の血液型が分かれば、差し支えなければ教えてほしいと思って歩いてるんですが」
男性
「私も墨田産院ですから」
江蔵智さん
「あ、そうですか」
男性
「それから私はA型です」
江蔵智さん
「じゃあ違いますね」
行政の助けが得られないなか、江蔵さんは自力で生みの親を捜してきましたが…。
江蔵智さん(当時63)
「個人情報の壁はものすごい高いですよね」
江蔵さんは生みの親の調査を行うことを求め、再び都を提訴しました。都側は、取り違えの相手を調べることがプライバシー侵害にあたるなどとして、争う姿勢。
そうしたなか、東京地裁は21日の判決で、都に戸籍などをもとに調査するよう命じたのです。
江蔵智さん
「気持ちのなか、ちょっと明るくなったような、半分明るくなったような気持ちがある」
今後の調査にハードルは天。
社会部・吉田遥記者
「判決が確定すると、まず東京都は取り違えられた相手である可能性のある男性に対し、DNA鑑定を依頼します。相手が鑑定・調査に同意した場合、そしてさらに相手が会いたいという希望がある場合、江蔵さんは生みの親と連絡を取ることができるかもしれません」