3月26日午後2時 広島地裁呉支部
◆「間違いはないです」はっきりと答えた被告の男
被告の男が法廷に姿をあらわした。
坊主姿にマスク、紺色のスラックスにスエット姿、裸足にスリッパ。
法廷に一礼して入廷。
男にかけられた罪は
動物の愛護及び管理に関する法律違反
同法44条1項、同法44条2項
事件は広島県竹原市の大久野島いわゆる“ウサギの島”で起きた。
愛護動物であるイエナウサギの口の中にハサミの刃を入れたり後ろ足をつかんで曲げたりしてみだりに傷つけ、蹴って死なせた疑いだ。
裁判所からの公訴事実の確認に対し
「間違いはないです」男ははっきりした口調で答えた。
◆犯行に至る経緯とは…(検察の指摘)
男は会社員として労働するようになってから約半年後、他部署へ異動。
その後2024年8月にもとの部署に戻ったものの、その部署にはすでに後輩がいたため
上司らからの被告に対する指導が厳しくなり、その影響で次第に体調を崩した。
そのため2024年9月末ごろからは休職。
静養中に偶然ウサギの動画を見て興味を抱くとともに、
大久野島でウサギが放し飼いされていることを知り、
同年10月ごろ島に行きウサギを見て楽しむ。
その後ウサギの生態を調べウサギが弱い生き物であることなどを知る
ウサギの動画の中にウサギが悲鳴を上げている場面や
狩猟後に捕獲されたウサギが解体される場面があり、
この動画を見ているうちに実際にウサギが嫌がることを知り、
その時のウサギの反応を見たいと思うようなる。
それ以降大久野島に4回わたり、多数のウサギに蹴るなどの
暴行を加えて殺傷するなどし、虐待行為に及んでいた。
各犯行の日にいずれも当時居住していた自宅から公共交通機関を利用して島へ行き、
虐待対象となるウサギを見つけて、胸腹部を蹴る、頭部を踏みつける、
足を曲げて骨を折る、口腔内にハサミを挿入するなどした。
◆逮捕に至る経緯 被告のスマホには…(検察の指摘)
前から大久野島で多数のウサギが不審死していることを知っていた
ウサギ写真家は2025年1月21日、島に出血するなどした
複数のウサギの死体を目撃したため警戒していたところ、
被告が足元にいたウサギを蹴ったのを確認して被告に声をかけるとともに、
その場で現行犯逮捕
被告の使用するスマートフォンには犯行状況が撮影された動画が保存されていた
動画の中で、ポキという骨が折り、骨が折れるような音であるとか
悲鳴をあげているような状況もあることまた、その悲鳴は、ウサギを医療行為で
注射をする際に発するような行為であること、
従って苦痛を感じているということなどがわかるという。
そして動画には毛を抜く、耳を引きちぎる、首を絞める、口の中にハサミを入れる、鼻の穴をハサミで切るなどの
様子がおさめられていたという。
◆「虐待したいという感情が芽生えたときどう思ったか?」被告人質問(弁護人)
▪被告の父親作成の陳述書
社会復帰後は被告と一緒に生活すること、
専門家へ相談をするなど更生に向けた協力をする意向があることなどが記載。
弁護人
「公訴事実については捜査段階から一貫して認めている?」
被告
「はい」
弁護人
「犯行動機については、調書に記載されている通りで間違いない?」
被告
「はい」
弁護人
「具体的にどのようなことを行ったかについても、調書に記載されている通りで間違いない?」
被告
「はい」
弁護人
「犯行動機や犯行態様について、今この場で何か補足して説明したいことは?」
被告
「特にはございません。」
弁護人
「初めて大久野島に行ったのが去年の10月頃、どうして大久野島に行くことになった?」
被告
「ウサギに興味があったから、ウサギが好きだったから」
弁護人
「初めて大久島に行った時は、ウサギを虐待したいという気持ちはあった?」
被告
「全くありません」
弁護人
「何がきっかけ?」
被告
「SNSで虐待とかされているような動画を見てしまったことが原因」
弁護人
「自分で虐待の動画を検索した?」
被告
「たまたまその関連動画みたいなところに出てきた」
弁護人
「それで自分も同じように虐待したいという欲求が現れた?」
被告
「思わなかった、かわいそうだなっていうふうに思っていた」
弁護人
「それがどうして自分を虐待したいと思うようになった?」
被告
「その動画を見た時に、かわいそうだなって思うほかに他の感情が出てしまったっていうことだと思います。」
弁護人
「虐待したいという感情が芽生えたときどう思った?」
被告
「自分は異常だなと思った」
弁護人
「どのように異常だと思った?」
被告
「はじめはそんなにその感情があったわけではない
どのように異常かと言われるとちょっとよくわからない」
弁護人
「実際虐待に及ぶわけだが、躊躇することはなかった?」
被告
「あった、多少の躊躇の感情はあったと思う」
弁護人
「虐待したいという気持ちが現れて、誰かに相談したか?」
被告
「誰にも相談できなかった。自分の感情が異常だってことを
周囲に知られたくない恥ずかしい」
弁護人
「これまでウサギ以外の動物を虐待したことは?」
被告
「ない、ウサギ以外の動物を虐待したいと思ったことも無い」
弁護人
「ウサギは痛みや恐怖を感じない動物だと思っていたか?」
被告
「そうは思っていない。感情はあると思っている」
弁護人
「例えば犬や猫を虐待する人もいるそういうのを見てどう思うか?」
被告
「正直それはすごい悲しいことだと思う」
弁護人
「犬や猫を虐待する人を許せるか」
被告
「許せない」
弁護人
「では、あなた以外の人がウサギを虐待していたらどう思うか?」
被告
「私の立場ではそれはなんとも言えない」
弁護人
「話変わるが、逮捕された時は会社員で今無職、これはどうしてか?」
被告
「今回の逮捕で実名報道が出て、会社に迷惑をかけるから私から退職届けを提出した」
弁護人
「いつかは社会復帰する。その時はどこで生活する?」
被告
「両親のもとで生活しようと思っている」
弁護人
「両親の了解は得られているか」
被告
「はい」
弁護人
「今振り返って自分のしたことをどう思っているか?」
被告
「今は良くなかったことだと思っている。
被害を受けたウサギやそれを大切に思っている人たち、自分の周囲のことや
動物を大切に思っている人たちに対して、悲しい思いをさせた」
弁護人
「あなた自身にどういった問題があったと思いますか?」
被告
「やっぱり1番は周囲に相談できなかったことだと思う」
弁護人
「あなたは、自分の感情をコントロールすることができていたか。
行動についてはどうか?」
被告
「できていなかったと思います」
弁護人
「そうすると、社会復帰後もあなたの欲求を抑えることができないんじゃないですか?」
被告
「それは、これからそういうことがないように何かあった時は親に相談したりするとか、
いろいろ自分で考えて被害が出る前に少しでも何かフォローしなければならないと思っている
弁護人
「この感情や行動をコントロールできなかったという問題点を改善するために、何か考えているか?」
被告
「専門機関に相談することだと思っています」
弁護人
「今無職ですけど、今後仕事はどうする?」
被告
「具体的なとこは決まってないが社会復帰を考えている」
弁護人
「今回の件で誰に迷惑かかったかもう1回言ってくれますか?」
被告
「まずは自分が虐待したウサギだったり大久野島のボランティアの方だったり、
自分の周囲の方も、いろんな多くの人に迷惑をかけてしまった」
◆「なぜこんな大きな社会問題になっていると思うか?」被告人質問(検察)
検察
「事情聴取の時に、もっとたくさんのウサギに虐待したと言っていたが
ウサギのことを考えたことっていうのはなかった?」
被告
「多少はあったと思う。
これをしたらかわいそうだなっていう気持ちは多少あったんだと思う」
検察
「それが抑止にはならなかったのはなぜ?」
被告
「自分の感情をコントロールできなかったこと原因だと思う」
検察
「仮にあなたが今回ウサギにしたようなことをあなた自身がされたら?」
被告
「自分自身も傷つきます」
検察
「体重差がある中で、ウサギを蹴ったり踏んだりしたらウサギがどうなるかっていうのは想像してなかったのですか。
当然、それをわかった上でやっていたってことですかね?」
被告
「はい」
検察
「今回、非常に報道されているがなぜこんな大きな社会問題になっていると思うか?」
被告
「自分のやっていることが異常だから」
検察
「命の重さって考えたことない?」
被告
「あります」
検察
「あなたはウサギの命をどのように考えていた?」
被告
「軽く考えていたかもしれない。とんでもないことをしてしまったと感じています」
検察
「今後あなたが今回事件の処分がどうなるか、
裁判の結果がどうなるかわからないがお父さんがいろいろあなたのために考えていることがある。
それについては、あなたもちゃんとお父さんに言われたことを受け入れて、
協力してやっていくっていうことで大丈夫か」
被告
「はい」
◆「今考えるとどうすればよかったと思うか?」被告人質問(裁判官)
裁判官
「それなりの期間の間、事件を起こしていることになる。この間途中で罪悪感とか、
自分の行動は異常なのではないかとか、やっている間に悩んだことは?」
被告
「多少あった」
裁判官
「そうなった時に今後繰り返さないようにするためどうにかしようとは思わなかったか?」
被告
「多少は思っていた」
裁判官
「具体的に行動とかしていたか?」
被告
「具体的な行動っていうのは取れてなかった」
裁判官
「今考えるとどうすればよかったと思うか?」
被告
「自分から(相談する相手とかを)探しに行くという行動は取れたと今では思う」
裁判官
「なぜその時できなかった?」
被告
「やっぱりこの自分の弱みをさらけ出すことに抵抗がある」
裁判官
「今後同じような場面では繰り返すのではないかと
思ってしまうが自分ではどうか?」
被告
「目の前にある自分の問題を解決することが先だと思う。そしてその同じような悩みが出た時にどう行動するか、その自分の弱みをさらさないといけない時にどうするかっていうのも、今のところ自分ができるのは周囲の人に相談すること」
◆検察が求める求刑は…
【身勝手かつ短絡的な動機であり、犯行に至る経緯にも酌量の余地は無い】
また、当時被告が精神的に不安定な状況であったことは認められるにしても、
その状況下で犯行への決意が正当化されるものではないことを踏まえると
動機や経緯に酌量の余地は皆無、その意思決定は強い非難に値する。
【計画的な犯行であり、対応も残忍かつ危険で、相応に悪質】
被告人は本件各犯行に及ぶ目的で当時の自宅から遠隔地となる
大久野島へわざわざおもむき犯行に及んでいることからすると計画的犯行と言える。
【常習的犯行であり、周囲に与えた影響を大きい】
被告は、今回、2日間という短期間のうちに合計7羽のウサギを虐待していることから、本件は常習的犯行。
このことは、被告人が捜査段階におきまして、約2カ月間のうちに約60羽のウサギを
虐待した旨供述していることからも認められる。
本件は、何ら落ち度のない多数のウサギを虐待した事案として新聞などでも大きく報道されており、周囲に与えた影響は大きい。
以上諸般の事情を考慮し被告を懲役1年に処するものを相当とする
◆「職や住居を失うなど相応の社会的制裁を…」情状酌量を求める弁護側
被告は捜査段階から一貫して事実関係を認め、捜査にも積極的に協力し、
当法廷においても反省の弁を述べていること、本件犯行の原因を自覚するとともに、
再犯防止策として社会復帰後は専門の機関に相談しにいく、
自業自得であるとはいえ本人の実名がマスコミ報道され、本件を契機に勤務先を退職せざるを得ず、
職や住居を失うなど相応の社会的制裁を受けたということ、
可塑性に富む若年であり、相当期間の身柄拘束を受けたことや前科前歴がないこと、
被告の父親は被告の更生に向けて具体的な方策を既に検討しており、
社会復帰後は被告人の指導監督を徹底する旨誓約しているなどを踏まえると、本件では執行猶予判決が相当である。
判決は4月14日に言い渡される予定だ。
*傍聴した記者の取材に基づいています。