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Home > ESSAY > 第9話 「僕と彼女の物語 ~中編~」
10年前を一昔とするならば、僕は一昔前と少しでも変わったのだろうか?
アメリカ合衆国、第5の都市であるサンフランシスコは広い。
果たして、700万人という人口の中から、たった一人の「彼女」を見つけることができるのか?
市内へと戻った「僕」は、メイスン通りを歩き、サンフランシスコ動物園やアカデミー・オブ・サイエンスなど、初めてフランシスコに来た者が訪れるだろう観光名所を練り歩く。しかし、彼女の姿を見つけ出すことが出来ない。
陽も傾き始め、疲労感を焦燥感がバックパックに重く圧し掛かる。
僕はふと足を止め、長くなった自分の影を辿ると、そこには色とりどりの「風船」を配っているピエロがいた。
金髪の子供たちが嬉々として風船と戯れている。そこで、僕はピエロにお願いをした。
「その風船を全部下さい!」
ピエロは表情を変えず、持っている全ての風船を僕に手渡した。
早速、僕はその風船たちをバックパックに結んだ。虹色に輝く風船たちが僕の頭上を舞う。
ブロンド・ヘアーの子供達の泣き叫ぶ声を無視し、僕は足取り軽くノースビーチのコルト・タワーに登り、風船をなびかせながら、心の中でこう叫んだ。
「僕を見付けてくれ!!!」
8月13日。待ち合わせまで24時間。
次の日も僕は風船をフワフワと浮かばせながら、サンフランシスコの石畳を歩く。
そして、ロンバート・ストリートに差し掛かった時、ひとりの陽気なアメリカ人が僕に声を掛けてきた。どうやら風船をなびかせて町を練り歩く日本人を奇妙に 思ったらしいのだ。僕は彼女との探し合いの話を拙い英語で伝えると、そのアメリカ人は笑いながらこう言った。
「君はバルーンマンだ!」
それからも度々、声を掛けられた。もちろんアメリカ人が聞きたいことは同じ。そして僕の答えも同じ。結局、「バルーンマン、グッド・ラック!」ってことで 会話は終わる。ここまでなら、よくある話なのかもしれない。しかし、ここは自由と夢の国、アメリカ。なんと、この奇妙な日本人の話題を聞き付けた地元テレ ビ局が生放送で僕に取材を申し込んできたのだ。僕は拙い英語で質問に答える。
「僕はバルーンマンです。」
テレビの反響があったのか、町中から届く僕への視線は暖かいものに感じてきた。高まる期待と会いたいと思う気持ち。様々な思いを乗せたケーブルカーに揺ら れながら、僕は彼女を探し続けた。しかし、この日も彼女の視線は感じないまま終わってしまった。
彼女はどこにいるのだろう?
彼女との思い出から10年が経ち、ふと思うことがある。
「あの時、1秒でも早く彼女を見つけられていたなら、僕たちの関係は変わっていたのだろうか?」、と。
~つづく~