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Home > ESSAY > 第32話 「おしゃべり洗濯機」
洗濯機が壊れた。
初めて一人暮らしを始めた時に買ったその洗濯機の年齢は8歳と4ヶ月。
もう寿命となってしまったのか? それとも、故障しているだけなのか?
その事実さえも、その洗濯機は語ろうとはしない。
無口な洗濯機だ。
「困ったなぁ~。」
そんな中、母親が土日を利用して僕の家に上がり込んできた。
季節の変わり目になると、嬉々として彼女はやってくる。
そう、掃除大好き人間にはたまらない衣替えの時期だからだ。
そして、壊れた洗濯機を発見して、驚くべき一言を発した。
「新しい洗濯機を買ってくる!」
さっぱりしている母親に、「故障しているだけかもしれないよ」、と訴えても、彼女はまったく聞く耳を持たない。
僕の財布からクレジットカード抜き出し、いよいよ嬉々として家を出た。
1時間後、彼女は電気屋さんと新しい洗濯機を従えて帰宅。
そして、冬物の衣類を新しい洗濯機の中に入れて何の躊躇もなくボタンを押す。
騒音も無く、クルクルと回る静かな洗濯機。
そんな無口な洗濯機の代わりに、母親がまた一言物申す。
「洗濯機の仕事は汚れを落とすこと。」
当たり前のことである。
「役割を果たしてこそ、輝きを発する」という真理は、確かに存在するからだ。
壊れたからといって、失ったからといって、傷付いたからといって、悩んでも仕方ない。
洗濯物は晴れた日に干さなければ、気持ちよくないのだ。
嫌な記憶も、煩わしい思い出も、汚れを落として全てスッキリしちゃえばいいのである。
無口な洗濯機は、そんな哲学を教えてくれた。
今度の洗濯機は、結構、口うるさい奴かもしれない。
僕の役割は何なのか?
捨てられないために、よく考えなくてはいけない・・・