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Home > ESSAY > 第13話 「憧れの人 ~前編~」
台風4号が猛威を振るった7月の三連休。
僕は970ヘクトパスカルの嵐を潜り抜け東京にいた。
なぜなら、先輩の結婚報告ホームパーティーにお呼ばれしたからだ。
深川のお洒落なマンションの一室。玄関にはマリーゴールドの鉢が置いてある。
あれだけ乱暴だった人が、結婚をするとこんなに家庭的になるのか?
結婚への恐怖心と、初めて会う新妻への緊張を噛み殺しながらベルを鳴らした。
ピンポーン。
12畳のリビングは白とスカイブルーの調度品で統一されていた。
親しい人たち8人だけが集められたホームパーティーには、ちょうど良い広さだ。
祝いの挨拶を新郎新婦に告げると、食いしん坊でもある僕の興味は食べ物に移った。
早速、テーブルに視線を移すと、僕の期待を裏切るものが無造作に置かれていた。
たこ焼き機。
なぜ、関西人でもない先輩がこんな器具を持っているのか?
なぜ、結婚初のホームパーティーにたこ焼きなのか?
なぜ、結婚はこんなに人を変えてしまうのか?
様々な疑問が沸き起こる中、さらに追い打ちを掛ける一言が僕の背中に突き刺さる。
「たこ焼き、焼いてくれ!」
嵐の中を広島からわざわざ上京してたこ焼きを作る。
これはなんの罰ゲームなのか?
しかし、「先輩のおっしゃることは絶対!」という環境で育った僕は、文句も言わず、慣れないたこ焼き作りに取り掛かった。
すると、遅れてきた一人の女性が僕に声を掛けてきた。
「手伝いましょうか?」
振り向くとそこには、僕の憧れの人が、凛と立っていた。
10年前、会社を退職し、自暴自棄になっていた時に見ていたテレビの中にいた人。
そのドラマは僕の心の支えとなり、今の自分を創っていると言っても過言ではない人。
いつか一緒に仕事をしてみたいと、心の底から願っている人。
彼女の名は、国仲涼子。
一瞬、息を飲み、僕は冷静に今の状況を整理した。
今はただ、沖縄の女と広島の男が大阪のたこ焼きを作るのだ、と。
~つづく~