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Home > ESSAY > 第27話 「ハンカチーフをプレゼント」
人は、愛する思いを伝える時に、人生の節目に歓びを伝えるときに、自分の気持ちを表現する「道具」として、プレゼントを渡す。
誕生日には、黒いワンピースを。
バレンタインには、甘いチョコレートを。
プロポーズには、ダイヤモンドの指輪を。
クリスマスには、とびっきりのプレゼントを。
しかし、愛し合った恋人が別れる際に、とある「プレゼント」を渡すという話を聞いたことがあるだろうか?
ハンカチーフ。
そんな悲しい逸話をもつハンカチーフを、僕は、大学の卒業式に母親からプレゼントされたのだ。
1998年3月、東京三鷹の天気は晴れ。
桜のつぼみは今にも咲こう、咲こうと、はち切れそうで、まるで新しい道を歩もうとしている卒業生の気持ちのようだった。
卒業式の会場となった教会を出ると、僕よりも誇らしげな表情の母親が待っていた。
「卒業、おめでとう!」
母親の手には、几帳面にラッピングされたひとつのプレゼントがあった。
それは、紺色のハンカチーフ。
そして、母親の言葉がつづく。
これからあなたは社会に出ます。
きっと、そこは厳しい世界でしょう。
それでも、あなたは一人で生きていかなければなりません。
そして、自分の夢を叶える前に、苦しいことや辛いことが、必ずやってきます。
それでも、、、、それでも、あなたは一人で闘わなければならないのです。
なぜなら、自分の選んだ道だからです。
これからも、もっと努力しなさい。
一生懸命、汗をかいて仕事をしなさい。
嘘は付かないように。
ゴハンはしっかり食べなさい。
常に前向きに考えなさい。
毎日、お風呂に入って、しっかり寝なさい。
友達を大切にしなさい。
思い切って、自分の人生を歩みなさい。
でもね、、、。
それでも、辛くて悔しくて、涙が出ることもあるでしょう。
あなたは、人一倍、気が小さくて、感情的で、優しい男の子だから。
だから、その時は、このハンカチーフで涙を拭きなさい。
泣きたい時には、泣いてもいいの。
でも、人様の前で涙を見せてはいけない。
でも、それでも、涙が止まらない時は、このハンカチーフで拭きなさい。
そして、、、
もし、あなたの夢に一緒についてきてくれる女性が現れたら、その彼女をしっかり守ってあげなさい。
もし、あなたの大切な彼女が涙を見せたら、そっとハンカチーフで拭いてあげなさい。
このハンカチーフは、その時までのお守りね。
この世に、魔法の道具があるとしたら、それは、悲しみや苦しみ、辛さや痛みを、優しく拭い去ってくれるハンカチーフかもしれない。
そして、卒業式から10年が過ぎた。
僕の右のポケットには、いつも紺色のハンカチーフが入っている。