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第41話 「旅に出る理由」

ある哲学者は言いました。
「人生とは旅のようなものであり、旅とは人生のようなものである。」、と。

僕は、もう一度、バックパックから荷物を広げ、忘れ物が無いかどうかを確認する。
大好きな本が3冊、愛用のライカ、そして、スタンプいっぱいのパスポート。
そして、まだ寝ている彼女の耳元で、そっとつぶやき、僕は旅に出る。

「行ってきます」


僕たちは、なぜ旅に出るのか?

僕たちの人生には、いくつもの節目があり、そこには「時代」が存在する。
そして、旅にもいくつか「種類」があり、僕はその旅のどれかを未だに続けている。

哲学界の巨人であるニーチェは、人生という旅を「3つの時代」に分割した。

暗さと輝きが交錯する「ラクダの時代」。
恍惚と不安の狭間を行き来する「獅子の時代」。
そして、全てから解放される「胎児の時代」。

人は、「変化」をしながら、その時代を生き、自分だけの「地図」を描く。
旅の途中、僕は、ニーチェの哲学をヒントに、旅の種類について考えてみた。

行き先の情報を集め、空想を広げる「未来の旅」。
地図を片手に見聞を広め、異文化との出会いを楽しむ「現在の旅」。
そして、現像された写真を手に、旅の思い出に浸る「過去の旅」。

人は、「時間の逆行」を体験することで、「幸せ」を享受しているに過ぎないのかもしれない。
「未来」を願い、「今」を生き、「過去」を懐かしむ。
こんな単純な構図こそが、旅の本質であり、そこにこそ、僕が旅に出る理由が存在するのだ。


「ただいま」

そんな僕は、行き当たりばったりを繰り返しながら、彼女の家にたどり着く。
ドアを開け、大きな声を出してみるものの彼女はいない。
僕はひとり、バックパックから荷物を取り出し、旅の後片付けをする。
書き込んだノートが3冊、モノクロ用のフィルム、そして、スタンプが増えたパスポート。

すると、前触れもなくドアが開き、二人の声が重なる。

「おかえり」

いくつもの時代が存在する人生。様々な種類が存在する旅。
そんな複雑に入り組んだ世界で、二人が交錯する「点」は、どんな地図にも描かれていない。

「行ってきます。」と「行ってらっしゃい。」
「ただいま。」と「おかえり。」

この二つの言葉が重なり合う「点」こそが、僕たちがこの旅で見つけなければならない「奇跡」なのだから。


「たまには、ふたりで旅をしようよ」
と、いつも僕より先に寝てしまう彼女の耳元でそっとつぶやいた。
「カリブ海に素敵な島を見つけたんだ・・・」

  • 11月11日生まれ
  • A型 さそり座
  • ICU 教養学部 数学専攻卒
  • 銀行員からTV業界へ転身した異色ディレクター
  • 好きな食べ物 すき焼・チョコレート・メロン
  • 好きな言葉 「移動距離とアイデアの数は比例する」
  • 将来の夢は直木賞作家
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